BENTLEY CHRONICLE PART1:#004

BENTLEY CHRONICLE PART1:#004

By SAWAMURAMAKOTO

BENTLEY CHRONICLE PART1

W.O.ベントレーとベントレー・ボーイズの時代 #004

W.バーナートが、寝台特急との懸けレースに勝った伝説の61/2リッター“ブルートレイン”。ただ、この個体はバーナートの所有には間違いないのだが、実際に使用したのは別の61/2リッターだったという。

 

■多くのフランス勢の中唯一の英国車として闘った1923年

 

この年の5月26~27日に歴史上初めて開催されたル・マン24時間レース。のちにスポーツカーレースの頂点に達することになるこのイベントに、直前のブルックランズのレースで勝利したジョン・ダフ大尉は、ベントレーの実力をフランスでも披露すべく、自身の経営するディーラー「ジョン・ダフ商会」名義で、1台の3litreをエントリーさせた。
 あいにくの雨となったサルト・サーキットに現われたマシーンは33台。ほとんどは地元フランス車で、英国車はダフのベントレーただ1台であった。彼らは建前上ではプライベーターだったが、マシーンはクリクルウッドのベントレー社内にて用意されたもの。ダフとコンビを組んだ第2ドライバーも、ベントレー社の実験部長で、社内最強の腕利きとして鳴らしたフランク・クレメントであった。ただW.O.自身は、24時間レースという過酷なチャレンジについて、かなり悲観的な予想をしていたという。
 カーナンバー8のベントレー3Litreは、前輪ブレーキを装着していないためウェット路面では不利を強いられたが、それでも序盤からレースをリード。2時間目を過ぎたあたりでは、この年のコースレコードである平均107.328km/hのスピードをマークしてみせる。ところが、夜になって跳ね石のためヘッドライトを片方失ってしまったこと、さらにはガソリンタンクの故障で燃料漏れを起こしてしまったことから後退を強いられ、結局4位入賞に終わる。ちなみに第1回ル・マンの優勝車は、地元フランスからエントリーしたシュナール・ワルケルだった。

■雪辱の1924年シーズンで初優勝を果たす
 前年、惜しいところで栄光を逃したジョン・ダフとベントレーは、雪辱を期して、再びサルト・サーキットに1台の3litreを持ち込んだ。ダフと組んだドライバーは、前年と同じクレメントであった。前年の挑戦でW.O.自身もル・マンと24時間レースの魅力にとり憑かれたことから、メーカー挙げてのバックアップ体制が整い、前年の教訓から前輪にもブレーキを装着。ヘッドライトにもストーンガードを取り付けるなど磐石の準備でル・マンに臨んだ。
 レース序盤は、前年の勝者ラガシュ/レオナール組のシュナール・ワルケルがリード。その後もロレーヌ・ディートリッヒなどフランス勢の先行を許すが、日曜の朝になってダフ/クレメント組のベントレーはトップに立った。しかし、彼らのマシーンもギアボックスのトラブルなどの不安を抱えていたのだが、その後2位を走っていたロレーヌの後退により、ついにル・マン初優勝を果たした。この年の完走はわずか14台。凄まじいサバイバルレースにて、ベントレーは、その性能と体力を示したのである。

■惨憺たる結果となった1925年シーズン
 ライバルから追われる立場となった1925年のル・マン。この年からイタリアのディアットやOM、アメリカのクライスラー、そしてベントレーと同じイギリスからもサンビームやオースティンが挙ってワークスマシーンを送り込んできた。第3回目にして、ル・マンは世界的なビッグイベントとして認知され始めたのだ。ベントレーも、初めて複数のマシーンでワークスエントリーを果たした。1台は、前年の覇者たるダフ/クレメント組。そしてもう1台には、この年が初参戦となるベンジャーフィールド博士と、ベントレー社のサービスマネージャーである、“バーティ”ことハーバート・ケンジントン・モイアがコンビを組んで乗ることになった。
 ところが、この年のル・マンはW.O.の期待に反して惨憺たる展開となってしまう。まずは19周目に“バーティ”が燃料消費の計算ミスのため、ピットに戻ってこられずコース上でストップ。残るダフ/クレメント組の3Litreも、64周目にSU型キャブレターの片側のフロートが破損、漏れ出したガソリンが引火してリタイアを余儀なくされてしまったのだ。なお、この年の優勝はロレーヌ・ディートリッヒに乗るクルセイユ/ロシニョール組であった。

※「フライングB No.001」(2008年刊)に掲載された記事に加筆修正しました。 掲載された情報は、刊行当時のものです。

W.O.時代のベントレー各モデルの中でも、特にカリスマ的人気を誇る41/2リッター“ブロワー”。ヴィリヤーズ社製のルーツ式スーパーチャージャーを搭載、180HP近いパワーを搾り出した。