BOOK FILE 3-1:Bentley: Personenwagen seit 1921

BOOK FILE 3-1:Bentley: Personenwagen seit 1921

By SAWAMURAMAKOTO

簡素ながら濃いベントレー・ハンドブック

自動車界の一流ブランドの歴史を記したドイツの人気シリーズに、 満を持したようにベントレー版が誕生。簡潔ながら内容は濃い。

text:Hiromi TAKEDA 武田公実

 いきなり偏見交じりの私見を述べてしまうようで恐縮なのだが、筆者はドイツ人のクルマ好きたちが、ベントレーというブランドに特別な愛情を抱いていると確信している。
   それは、現在のベントレー社のパトロンがVWグループであるから、という理由だけではない。例えば"ル・マン・クラシック"などのヒストリックカー・レース、あるいは"ミッレミリア"や"グランプレミオ・ヌヴォラーリ"などのロードイベントでも、W.O.時代のヴィンテージ・ベントレーたちの姿が数多く見られるのだが、そのエントラントの国籍は、ベントレーの母国であるイギリスに次いで、実はドイツが多いのである。
   その理由について、2000年のグランプレミオ・ヌヴォラーリの会場にて、4 1/2リッターブロワーに乗るドイツ人参加者に尋ねる機会があったのだが、同時期の自国車であるメルセデスSヴァーゲンではなく敢えてベントレーに乗るのは、反骨精神と冒険心の発露とのこと。そして彼曰く「このブロワー・ベントレーで、メルセデスSヴァーゲンをブチ抜くのが快感なんだ」との由であった。
   そんなドイツ人がベントレーのヒストリーブックを製作すると、やはりカッチリとした仕立てになるのは国民性のなせる業か? 今回紹介する本は、W.O.ベントレーがフランス製小型車"DFP"のディーラーとして活動を開始した1910年代から、現代に至る約百年を過不足なく記した内容を持つ。それだけ見てしまえば、前号でご紹介した母国イギリスのベントレー歴史書「The Complete Bentley」と大差はないのだが、今回の本ではまるでメーカー発行のヒストリーブックのごとく、シンプルで美しい写真とイラストで、ベントレーの歴史が分かり易く説明されているのが特徴なのだ。
   一方、1985年にわずか1台のみが製作されたR-Rカマルグのベントレー版や、1940年代末にピニンファリーナが、ベントレー・マークVI をベース製作したスペシャル"クレスタ"を写したショットなど、資料という点でも貴重な写真も添えられており、非常に興味深い1冊となっている。


Bentley: Personenwagen seit 1921
Matthias Braun/Alexander F.Storz著
MOTOR BUCH VERLAG社刊
128ページ/ドイツ語

※「フライングB No.003」(2010年刊)に掲載された記事に加筆修正しました。 掲載された情報は、刊行当時のものです。