BOOKFILE 06-1 : Rolls Royce & Bentley: The Crewe Years
聖地クルーの創造物たち
今やベントレーの聖地として知られるクルー工場。
この新工場に移った戦後のR-R/ベントレーの軌跡を克明に綴った本が再版された。
text:Hiromi TAKEDA 武田公実
もともと第二次大戦中に、航空機エンジンなどの軍需生産工場としてチェシャー州の田舎町に建設されたR-Rクルー工場。戦後はR-R(ロールス・ロイス)/ベントレーの乗用車生産の拠点を戦前のダービーから移設され、数多くの名作を生み出してきた。そして現在ではベントレーの新たな"聖地"として、我々ファンが敬愛してやまないベントレーの最新モデルたちを続々と世の中に送り出しているのはご存じのとおり。 今回紹介する本は、クルー工場からラインオフしたロールス・ロイス/ベントレー車のヒストリーを480ページにも亘って綴った壮大な歴史書。技術的要素はもちろんのこと、R-R/ベントレーを語るには絶対に避けることのできない美的側面、つまり美しく豪奢なスペシャルコーチワーク・ボディとそれらを制作した伝統的コーチビルダーの歴史と興亡についても、実に詳細に亘って記されていることが判る。 元来G.T.Foulis & Co.社から1995年に上梓され、1999年に現在のヘインズ社で改訂されたこの本は、世界中で絶大な支持を得ている良書として知られる。そして昨2011年に発行された第3版がついに日本上陸を果たすことになったのだが、今回の改訂では戦後のクルー史をより充実したとのことで、持ち前の資料性と完成度にさらなる磨きが掛けられた。 著者であるマーティン・ベネット氏は、初版発行以前から実に20年以上の年月をかけて、この本の製作と進化に情熱を傾けてきたとのこと。その結果として得られた情報量はまさに圧巻と表現するしかない。また、歴代ベントレーのチャームポイントであるラジエーターマスコットや計器盤のスイッチボードにもそれぞれ専用のチャプターを用意するなど、ベネット氏のマニア心にもニヤリとさせられてしまう。 ベントレーについて語る資格は誰にでもあるものではなく、真に情熱を持った者に限られるべき。この本に懸けられた20年の歳月は、そんな真実を如実に証明しているのである。
Rolls Royce & Bentley: The Crewe Years
Martin Benett著
HAYNES社刊
480ページ/英語
※「フライングB No.006」(2012年刊)に掲載された記事に加筆修正しました。 掲載された情報は、刊行当時のものです。