SEA TO SKY -- BENTAYGA EWB IN VANCOUVER

SEA TO SKY -- BENTAYGA EWB IN VANCOUVER

By SAWAMURAMakoto

The End of an Era and the Opening of the Second Act
ひとつの時代の終わりと、第2幕の幕開け

2020年のデビュー以来、好調なセールスを続けバリエーションを増やし続けてきたベンテイガに第5のモデルが加わった。それがベンテイガEWBだ。 一見、ただのストレッチ・バージョンと思われるかもしれないが、群雄割拠の高級SUVシーンにおいて、ベンテイガの魅力を最大限に活かした、新たな道を切り開く1台になる予感がする。

words: Yoshio Fujiwara

 プレゼンテーションの席上、ベンテイガEWBのポジショニングとして語られたのは、“The rise of the luxury SUV and the fall of the luxury sedan.―高級SUVの台頭と高級セダンの凋落”という、少々刺激的な一節だった。ちょうどその日が、ステートリムジンをこよなく愛したエリザベスII世の国葬の前日ということもあってか、そのフレーズは何かひとつの時代が終わり、新たな時代が始まろうとしているイギリスの姿に重なってみえた気がした。

 国際試乗会の舞台となったのはカナダ西海岸に位置するバンクーバー。クリーンかつ活気に溢れた都会と、海や山、湖といった大自然が共存するカナダ第3の都市だ。

 ベンテイガEWBは、Extended Wheelbaseという名が示すとおり、ホイールベースを180mm延長したストレッチ・バージョンである。

 しかし目の前に佇むベンテイガEWBに、いわゆるストレッチ・リムジンにありがちな間伸び感は感じられない。その秘訣をデザイナーのクリスピン・マーシュフィールドに訊ねると、ボディが間伸びして見えないようにフロントウインドウの傾斜に合わせ、リアウインドウも寝かせることでルーフが長く見えることを防いでいること。リアフェンダーに描かれたパワーラインを前進させるだけでなく、ドアの中央に向けて斜めに入れることでドアを大きく見せないようにしていること。さらにクォーターウインドウの大きさ、ラインも変えることで全体をバランスさせていることなどがポイントであると教えてくれた。

 そんなベンテイガEWBのハイライトは広大で快適なリアシートに尽きる。もちろん16通りの調整が可能で、ヒーター、ベンチレーター、マッサージ機能が付属する標準仕様でも十分に素晴らしいのだが、22通りの調整が可能で、最大40度までリクライングできるシートを備えるベントレー・エアラインシート・スペシフィケーションは別格といえる出来栄えだった。

 というのも、座っている人の温度と湿度を測定し、ヒーターとベンチレーターが自動で調整されるシート・オート・クライメートや、シート形状を継続的に少しずつ変化させ体にかかる圧力を分散するポスチュラル・アジャストが備わっているだけでなく、VIPモードをセレクトすると助手席が前方へスライドしたうえで最大限にリクライニングし、まるでファーストクラスに乗っているかのような空間を味わえるからだ。

 今回の試乗コースは高速道路と、雄大な山々の中を行くワインディングロードで構成された素晴らしいものだったが、ステアリングを握って驚いたのは、ロングホイールベース化により高速域での直進安定性が向上しているうえ、全輪操舵のエレクトロニック・オールホイール・ステアリング、48Vの電動アンチロールバー、ベントレー・ダイナミックライドの効果により、高速コーナーでもタイトコーナーでもスタンダードと遜色のないナチュラルなハンドリングとシャシーの一体感を味わえたことだ。そこには車重が増え、全長が伸びたことによるネガは一切ない。むしろ質実ともにベスト・ベンテイガであると断言できる。

 そんなことを想いながら走っていると、山奥の静かな湖畔に辿り着いた。そこで我々とベンテイガEWBとのショートトリップは終わり、用意されていた水上機で帰路に就くことになったのだが、1日で300km以上を走っても、まだまだ走り足りないというのが正直な感想だった。

 おそらく彼らの言う通り、ベンテイガEWBはミュルザンヌEWBに代わりうる存在になっていくのだろう。そしてベンテイガEWBはまた、途方もない速さやインパクトに偏りがちになっている世の中の高級SUVの在り方にも大きな影響を与えることになるはずだ。

 このクルマからベンテイガの第2章が始まる―滑らかな水面から飛 び立つ水上機の中で、そう確信した。  

 

※「フライングB 1」(2022年刊)に掲載された記事に加筆修正しました。掲載された情報は、刊行当時のものです。

 

ベンテイガEWBには標準設定の4+1シートに加え、4シート、5シートと3種類のシートレイアウトが設定される。写真はリア・センターコンソールが備わる4シートのベントレー・エアラインシート・スペシフィケーション装着車。最大40度まで傾斜するシートは、座る人の体温や湿度を感知して自動でシートヒーター&クーラーを調整したり、シート形状が少しずつ変わって長時間移動の疲労を軽減するなど至れり尽くせりの内容。もちろんロフトキルトや新基軸のメタルオーバーレイ、ダイヤモンドイルミネーションなど贅を尽くしたクラフトマンシップ溢れるインテリアは健在で、1台あたり熟練した職人が132時間をかけ製造される。ちなみに50%以上のカスタマーがエアラインシート・スペシフィケーションかダイヤモンド・イルミネーションを、約30%がオプション塗装やメタルオーバーレイをオーダーするそうだ。