SYMPHONY OF SPEED -- BENTAYGA S

SYMPHONY OF SPEED -- BENTAYGA S

By SAWAMURAMakoto

The exceptional model takes it up a notch
磨き上げられた、もうひとつの究極

今、ベンテイガは3つの道の上を走っている。ひとつはハイブリッドによる電動化の道。ひとつはEWBを頂点としたラグジュアリーSUVの道。そして最後がスピードを頂点とするスーパーSUVの道だ。このたびスピードの弟分としてラインナップに加わったベンテイガSは、既存のV8のポテンシャルを最大限に活かしたスーパーSUVの新星である。

words: Yoshio Fujiwara

 試乗の前夜、ウェルカムディナーが行われたのはオーストラリア・アデレード郊外のペンフォールド・マギルエステートというワイナリーであった。ここはイギリスから移住した医師のクリストファー・ローソン・ペンフォールドと、その妻メアリーが1844年に設立したオーストラリアで最も古いワイナリーのひとつで、今や世界屈指の銘柄として確固たる地位を築いている。そこでいくつかのワインをテイスティングしつつ印象に残ったのは、一口にワイン作りといっても、伝統の継承だけではなく、常に新しい技術や製法が生まれ進化を続けているということだった。

 それはベントレーという伝統のブランドの中にSUVという新たな風を吹き込んだだけでなく、常に熟成、進化を続けているベンテイガの姿にも通じるものがある。

 ベンテイガV8のスポーツ・バージョンとして新たに加わったベンテイガSは、各所をブラックアウトし迫力を増したエクステリアや、ベンテイガとして初めてアルカンターラが採用されたインテリアが印象的なモデルだが、その本質は中身、特にシャシーにある。

 エンジンはV8と同じ550ps&770Nmの4リッターV8ながら、足回りに0.3秒で最大1300Nmのトルクを発生してコーナリング時のロールを抑制する48Vのベントレーダイナミックライドを標準装備。さらにスポーツモードのセレクト時にエア・サスペンションの減衰力を15%アップしているほか、エレクトロニック・スタビリティ・コントロールや、トルク・ベクタリング・バイ・ブレーキも専用にチューニングされるなど、全方位的に手が加えられている。

 試乗の舞台はアデレード郊外にあるベンド・モータースポーツ・パーク・ウェスト・サーキット。生憎の大雨という特殊なコンディションではあったが、その効果は明らかだった。

 とにかく驚くのは圧倒的なスタビリティの高さで、ストレートでフルスロットルにしても、ホイールスピンも起こさず矢のように真っ直ぐに走るし、またコーナーでもフラットな姿勢を保ったまま、ステアリングの修正を必要とせずにピタッと狙ったラインをトレースする。またノーズが軽いため、ステアリングを切った時のターンインの鋭さや、コーナーの切り返しの素早さはベンテイガ・スピードより、一枚も二枚も上手。黒子に徹する各電子デバイスの制御も巧みで、スリッピーな路面でも挙動を乱すことなく、自信をもってコントロールできるのだ。

 もちろんベンテイガ自身の素性が素晴らしいという前提があってのものだが、その持てるポテンシャルを理解したうえで、550psのパワーをしっかり使い切れるシャシーに仕立て上げたベントレー技術陣の仕事は 見事というほかない。

 そういう意味においてベンテイガSは、ベンテイガのもつスポーツ性を磨き上げた、ひとつの究極の姿といえる。

 

※「フライングB 1」(2022年刊)に掲載された記事に加筆修正しました。掲載された情報は、刊行当時のものです。

最高速度290km/h、0-100km/h加速4.5秒とスペックシート上はスタンダードのV8と変わらないものの、絶品のハンドリングを誇るベンテイガS。エクステリアでは専用デザインの22インチ・ホイール、ブラックライン・スペシフィケーション、大型リアスポイラー、ダークティント処理のヘッドランプ&テールレンズ、ブラックアウトしたドアミラーやテールパイプなどでドレスアップされるほか、排気効率を上げたスポーツエキゾーストも標準装備する。一方のインテリアもベンテイガとして初めてシートやステアリング、シフトノブなどにアルカンターラを用いるほか、メーターディスプレイをベンテイガ・スピードと同じグラフィックに変更するなど、見た目においてもスタンダードとは違う1台に仕立てられている。