BOOK FILE 5:Bentley’s Great Eight

BOOK FILE 5:Bentley’s Great Eight

By SAWAMURAMAKOTO

名作V8のすべてを知る

超一流の自動車ヒストリアン、カール・ルドヴィグセンが、
ベントレーの名機V8のヒストリーを綿密にまとめた一冊を上梓した。

text:Hiromi TAKEDA 武田公実

 1959年に、S2およびS2コンチネンタルのパワーユニットとして誕生したベントレーV8エンジンは、以来52年もの長きに亘ってベントレー各モデルの心臓部として君臨。今や自動車史上に残る名機として、世界中から認知されるようになった。
 このエンジンのパワーについては、当時のベントレーの慣習に従ってスペックが公表されず、"必要にして充分"とのみ標榜されていたが、実質的には200ps前後だったとされている。しかし、その後排気量を6230ccから6750ccに拡大したほか、ターボ化やエンジンマネージメントの電子化、さらにはツインターボまで装着され、2008年のブルックランズでは、ついに537psもの恐るべき力を発揮するに至った。また先ごろ日本でのデリバリーが開始されたばかりの新型ミュルザンヌでは、ピストンおよびコンロッドの軽量化や、鍛造クランクシャフトも採用した結果、エンジン単体で23kgの軽量化を果たした上に、運転状況を判断して4気筒を休止するシステムまで加えられるなど、誕生から半世紀以上の時を経て、今なお当代最新のパワーユニットであり続けているのである。
 この素晴らしきベントレーV8の、エンジン単体に特化して深く掘り下げた本が、このほど日本のファンのもとに届けられることになった。著者は、世界的な自動車ヒストリアンにして、自動車テクノロジーにも詳しいカール・ルドヴィクセン。豊富な知識と経験を持つ同氏の作品らしく、ベントレーV8の技術的な進化に加えて、排ガス対策や会社の経営母体の変化など、多くの危機にも見舞われてきた波乱の歴史をコンパクトにまとめた、きわめて密度の濃い1冊と言って良いだろう。
 ちなみに日本デビューしたばかりの新型コンチネンタルGTにも、来年には新しい4リッターV8の追加が予定されているという。このように"V8"というアイコンそのものが、同社の重要な基本理念として脈々と息づいているとも言える。そして、ベントレーV8の歴史を克明に記したこの本は、同時にベントレーという自動車界屈指のブランドの近代史をも示していることから、ベントレー愛好家にとっては、まさに必読の1冊と思うのだ。


BentleyContinental:Corniche & Azure 1951-2002
Karl Ludovigsen著
DALTON WATSON社刊
207ページ/英語

※「フライングB No.005」(2011年刊)に掲載された記事に加筆修正しました。 掲載された情報は、刊行当時のものです。