THE EXTREAM BENTLEY : BENTLEY CONTINENTAL SUPERSPORTS

THE EXTREAM BENTLEY : BENTLEY CONTINENTAL SUPERSPORTS

By SAWAMURAMAKOTO

ベントレーが示すラグジュアリーカーの未来

2008年3月のジュネーヴ・ショーでベントレーのCEO、フランツ・ヨゼフ・ペフゲン博士は、ガソリンとエタノールの両方に対応したFlexFuelというシステムを開発し、2012年までに実用化すると公約した。 これは、これまでの世界中の高級車やスポーツカーが、あえて目を背けていた"環境"という性能に、真正面に向き合うというベントレーの決意の表れだった。 そして1年後の、やはりジュネーヴでベントレーは新しいモデルを発表した。"Supersports"と古の名車にちなんだネーミングを持つこのニューモデルは、その名のとおりベントレー史上最速のモデルでありながら、世界最高水準の環境性能まで有していたのだ。 地球と自動車をとりまく環境問題に対して、そして常に最高を求めるベントレーユーザーに対して、ベントレーが示した解答とはいったいどのようなものだったのだろうか。

[以下、2010年4月に刊行された“FLYING B No.003”に掲載されたものに加筆・修正したものです。]


■ベントレー示す新しい高級車の在り方
 '09年1月某日。私は仕事をすっかり忘れて、夢のような気分でとある席に付いていた。戦前のヴィンテージ・ベントレーの脇に、清潔なテーブルセットが設えられている。シンプルだが、いちクルマ好きにとって、これ以上の演出はあるまい。しかも、そこはベントレーのクルー本社屋に連なる建物の中だった。
「新しいラグジュアリーカーを今こそ世に問うときだ。そしてベントレーは最強スポーツカーの頂点を目指す」
 ドクター・ペフゲンCEOは、世界中からやってきた25人のジャーナリストを囲む食事会に先立って開かれた新型車プレビューのプレゼンテーションで、そう力強く語った。その新型車こそ、コンチネンタル・スーパースポーツ。ベントレーの今後を占う最も重要なモデルであると、彼は宣言したのだ。
 あまりに単純で愚直なネーミング。生半可なブランドが使ったならば陳腐にさえ思えるだろう。堂々と心に響いて聞こえてくるのは、創立90年を迎えた伝統のなせるワザである。加えてそこにはベースとなった21世紀のコンチネンタル・シリーズの、ブランド復活を支えに支えた大成功も横たわる。
 事実、このネーミングはベントレーの歴史を忠実になぞったものだ。21世紀のコンチネンタル・シリーズの2ドアモデルは、GTからGTスピードへと発展した。そして、"スピード"を超越するスポーツモデルに似合う名前はといえばもう"スーパースポーツ"しか残されていない。ヴィンテージ・ベントレー・ファンにとって、これは常識だろう。
 ベントレーの歴史は名車3リッター・シリーズで始まっている。1919年に登場したベントレー3リッターには、既にOHC、4バルブ、ツインスパークといった野心的なテクノロジーが数多く注ぎ込まれていた。シリーズにはホイールベースの違いなど様々なモデルがあったが、中でもたった18台のみの生産に終わった幻のベントレーが、3リッター・スーパースポーツである。時速100マイルを初めて突破したベントレー。だからスーパースポーツという名前は、ブランド生誕90周年の年に生み落とされた史上最強のロードゴーイング・ベントレーにふさわしかったと言っていい。
 ベントレー史上最強であるだけではない。史上最も"グリーン"なフライングBでもある。ベントレーにおける環境問題といえば、'08年春のジュネーヴ・ショーで、ラグジュアリーカーブランドとしての環境対策コミットメント=CO2戦略をドクター・ペフゲンが発表している。要約すれば、
(1)2012年までの間に、CO2を全モデルレンジで最低15%削減する
(2)40%の燃費向上を可能とするパワートレインを採用する
(3)全モデルで再生可能エネルギーの使用を可能とする
という3原則コミットメント。その核となるテクノロジーがフレックスフューエル対応のパワートレイン開発だった。
 スーパースポーツこそがベントレーの今後を占う重要なモデルであるとドクター・ペフゲンが言った理由は、何もその史上最強のパフォーマンスだけに拠ったものじゃない。むしろ、ベントレーのCO2戦略を担う3つの原則、言わば"公約"を、最初に達成するクルマとなったからであろう。
 もちろん、「ベントレーのカスタマーは何よりもスピードとパワーを重要視している。その事実がある限り、(環境問題が重要視されているからといって)パワーやスピードを否定するつもりは全くない。世界一のグランドツアラーを作る。それがベントレーの変わらぬポリシーだ」と、エンジニアリング担当の役員であるドクター・アイヒホーンが語ったように、史上最強のパフォーマンスとCO?削減の自主目標を同時に実現することで、フラッグシップブランドとしての地位をより確かなものにしようというのが、このグリーンベントレー計画の本筋だ。

■思想を実現するために採用されたメカニズム
 残念ながら日本市場においては精神論にとどまってしまうが、重要な項目なので、"環境仕様"も念頭においてその気になる中身=メカニズムを解説しておこう。もちろん、基本的なコンポーネンツはコンチネンタルGT譲りで、その各スペック&仕様をベースにスーパースポーツに概要を思い描いて欲しい。
 フレックスフューエル仕様(E0〜E85、100%ハイオクガソリンから85%バイオエタノール混合ガソリンまでが特別な準備なく使えること)となった6リッターW12ツインターボエンジンは、最高出力630ps、最大トルク81.6kg-m、最高速度329km/h、0→100km/h加速3.9秒というパフォーマンスを叩きだす。
 0-100km/h加速4秒以下は、正に"スーパースポーツ"カーの領域だ。この絶対的パフォーマンスとフレックスフューエル対応を両立するために、ベントレーのエンジニアは既存のW12ユニットをベースに大幅な仕様変更(インジェクション系や燃料系、各種マテリアルなどの見直し)を実施した。
 エンジンパワーを上げただけじゃない。併せてドライブトレインもスーパースポーツの名にふさわしいものとしている。4WDシステムは通常時でも前40:後60というダイナミックな駆動力分配とし、ZF製6HP26(6段)オートマティックトランスミッションも既存モデル用に比べて変速速度を半分に縮めたという。
 この6段A/Tでは、シフトアップ時のフューエルカットやシフトダウン時のブリッピングとダブルダウンシフトを実現しており、流行りのデュアルクラッチ・トランスミッション系と大差ないダイレクトかつ俊敏なギアチェンジを可能とした。630psのハイパワー、リア寄りの駆動力配分とあいまって、これまでのコンチネンタルGT系にはなかった、スポーツカー的にダイナミックな走りを期待させるに十分なスペックである。
 もちろん、過激なドライブトレインに見合うよう、脚まわりにも大変更が施された。エアサスCDCは専用チューニングとし、フロントサスペンションはアルミニウム製フォワードレバーで強化されている。リアトラックは左右で50ミリ広げられ、275/35ZR20のPゼロUHPが大パワー/大トルクを確実に路面へと伝えるもの。ESPももちろん専用スポーツセッティングだ。
 そして、このクルマを真にスーパースポーツたらしめるハイライトは、軽量化である。軽量化こそ、スポーツカーにとって未来を約束するキーワード。ベントレーとて無縁ではない。スーパースポーツでは基本的に完全2シーターとした(オプションで4座仕様も可能である)。重いラグジュアリーシートは、リアを完全に取っ払い、フロントをカーボンバケットタイプとした。そのほか、脚まわりでは市販車最大級のカーボンブレーキディスクを採用することで大幅な軽量化を実現し、シート、インテリア、シャシー、ホイールなども徹底的に軽くすることで、実に110kg(GTスピード比)ものダイエットに成功している。ちなみに減量の主な内訳は、フロントシート左右あわせて45kg、リアシートで26kg、カーボンブレーキディスク4個で20kg、鍛造アルミホイール4輪で10kg。
 フレックスフューエル仕様であることを除いたとしても、"一度でいいから乗ってみたい"と思わせるクルマである。待ちに待った試乗のチャンスが、初見から8ヶ月たった'09年9月末にようやく実現した。場所はスペイン第4の都市、セビーリャ。試乗会会場となったのは、かのエル・ブリがプロデュースしたホテル"HACIENDA BENAZUZA"で、そのパテオに8台のスーパースポーツが並んでいた。日本人コンビに供されたのはイメージカラーでありカタログのメインコーディネーションでもある、パールホワイト外装+レッド/ブラック内装の1台だったが、つや消しブラックも相当な迫力で気に入った!
 既に日本のカストマーへのお披露目も済んでいるが、今一度改めてコンチネンタル・スーパースポーツを観察しておこう。
 エクステリアでまず衝撃的なのが、フレッシュエアを大量に取り込むよう"改造"されたフロントマスクだ。ド迫力、という修飾語が真に迫る。フード上にもエアベントが追加された。  これまでメッキシルバーに輝いていた部分がスモークグレーにフィニッシュされたのも特徴だ。ベアリングや高級ツールなどに使われているPVDという凝着処理塗装が施されていて、これは自動車の外装用としては世界初の試みらしい。
 後輪のワイドトラック化に伴い片側で25ミリも広げられたリアフェンダーも、斜め後ろから眺めるとかなりの迫力である。テールエンドパイプは流行に則って新デザインバンパーにインテグレートされており、独特の雰囲気を。さらに空力を考慮して、リアウインドーの下端が8ミリつまみ上げられており、速度が上がるとスポイラーとしてせり出す仕掛けになっている。専用デザインの20インチホイールは(コンチネンタル用オプションホイールやスピード用ホイール同様)日本ワシマイヤー製。
 ドアを開けて中を覗く。スカッフプレートはカーボン製で、スーパースポーツのロゴが入っている。中は一見してスパルタンな雰囲気だ。まず、赤いレザーと黒いアルカンタラのスパルコ製スポーツバケットシートが目をひく。ステアリングホイールはデザインこそスピードと同じだが、ソフトグリップレザーの感触が手によく馴染んで心地いい。リアにはもちろんシートはなく、赤いダイヤモンドキルティングと左右に渡されたカーボンバーが見えるばかり。ただし、このバーはいわゆるタワーバー的な働きはなく、荷物止めくらいの役割らしい。その他、コンチネンタルシリーズ初となるカーボントリムがふんだんに奢られた。内装のカラートーンコーディネートとしては専用に7種類のシングルトーンと3種類の2トーンが設定されている。

■サーキットで心底楽しめる初めてのベントレー
 そろそろセビーリャで1日乗りまくった試乗インプレッションに移ろう。バケットシートとローダウンサスのおかげで着座位置はかなり低くノーマルGT系とは見える景色がまるで違う。  路面からの突き上げは想像していた通りダイレクトなもの。けれどもダイエット後でも2トンを超える重量を考えれば、そこから先の収まり方がとても優秀で気分がいい。ドタバタがまるでなく、ビシッビシッと締まって収まる。だから少々荒れた舗装路でも嫌味な硬さじゃない。柔らかめが好きならばGT系をどうぞ、というわけだが、全体的にブランドの名に恥じないライドフィールは確保されている。硬いが締まりのいい乗り味が好きな人にはバッチリだろう。
 路駐やバイクが多く煩わしいスペインの町中を抜けながらも感心したのが、クルマ全体の凝縮感だった。軽量化されてもゴルフ練習球のような薄皮感がない。全体的に15%ほど小さくなったコンチネンタルGTを運転している気分。ステアリングセンター中立付近の動きの正確さにも驚いた。ステアリングを切ったあとノーズが動き出すまでの間に"ゆらぎ"がほとんどなくアジリティも豊かで、中立付近での収まりも素直で気分がいい。そんなこんなで操るクルマが小さく思えるから、運転がラクだ。
 さらに、不自然な重みもなく、かといってチャラチャラと軽はずみな前輪の動きもないので、真っすぐ走っていても気持ちがいい。高速に乗ってから、GTスピードを上回る直進安定性&快楽性に気を良くして、スロットルを全開にしてみた。
 早くも2000r.p.m.手前から湧き出るトルクに興奮する。特に、4000r.p.m.を超えたあたりになると、足裏に盛大なトルクのノリが感じられて、クルマがさらに小さくなっていく。シフトアップ時の燃料カットオフ付きA/Tのおかげで、変速フィールはダイレクトかつダイナミックかつスムース。しかも迫力のサウンド付きだから、気持ちよくキマるダウンシフトのみならず、むやみにシフトアップしたくなってしまった!
 次のステージはセビーリャ郊外の山岳路。道幅が狭いこともあり、2トンを超える車重に戸惑いながらも、だんだんとペースが上がっていく。扱いやすいビッグトルクに加えて、後輪のふんばりがやたらに効いていたのと、軽く自然な手応えで動く前輪、そしてよく利くブレーキシステムのおかげで、下手の横好きでもコーナー進入への姿勢が作りやすく、リズムにのってくれば小型スポーツカーのようにガンガン攻めていけたのだ。
 セビーリャ郊外のモンテビアンコサーキットが試乗ステージの最後に用意されていた。着座位置の低さはサーキットでも効果てきめんだ。路面との関係が近いから、ラクに攻めていける。
 クロウトが満足しシロウトが操りやすい程度にまでロールは抑えられているから、高速コーナーの安定感は申し分ない。後輪へ余分に駆動配分されたこと、脚もとが軽いこと、ステアリングがセンター付近で正確かつアジリティ豊かに動くこと、そして信頼できるブレーキ性能などが相まって、相当ハイスピードでサーキットを駆け抜けることができる。ただし、"2トンオーバー"に乗っていることを忘れず、焦る気持ちを上手にコントロールできさえできれば……なのだが。
 しかも、これが大事なポイントだが、操っていて楽しい!最近のロードゴーイング・ベントレーの中で、サーキットを走っても心の底から楽しいと思えるモデルなんて、あっただろうか。
 ベントレーは間違いなく、スポーツカーブランドとして伝統の再解釈をスーパースポーツで試み、再構築に成功したと思う。

試乗会会場はスペイン第4の都市、セビーリャにある、かのエル・ブリがプロデュースしたことで話題になったホテル"HACIENDA BENAZUZA"。路駐やバイクが多い町中でも苦にならず、道幅が狭い山岳路でもついついペースが上がってしまう。なによりも最後のモンテビアンコサーキットの楽しさときたら!

ベントレーがこのスーパースポーツでもっとも気を使ったことのひとつが"軽量化"である。スポーツ性能と環境性能の両方に有効な手法だからだ。ウッドパネルの代わりに用いられたカーボン・パネルはもちろん、レザーの素材まで吟味されている。カラーリングはラグジュアリーというよりスパルタンな雰囲気でまとめられている。


インテリアの重量物であるシートは、カーボン骨格を持つスパルコ製のシートが採用されている。表皮はレザーとアルカンタラを組み合わせたもの。またリアシートは取り払われラゲッジ・スペースに変えられている。ただし、左右に渡されたカーボン製にバーは、タワーバー的な効果はなく、単にラゲッジスペースの仕切りである。

フロントバンパーのエアインテークは、中央の横型のものに加え、左右に縦型のものも備わる。こちらはヘッドライト下端ギリギリまで大型化されている。さらにエンジンフードにもスリット状のエア抜きが設えられた。

大きくかわった印象のリアビュー。リアウインドーの下端はブラックアウトされた可動式リアスポイラーが組み込まれている。また新デザインのリアバンパーの組み込み式のテールパイプがスポーティな雰囲気を醸し出す。

シフトチェンジのスピードが高速化されたZF製の6段A/T。他のメイクスのスポーツモデルがこぞって採用するデュアルクラッチ・トランスミッションにも実質的なスピードでは互角に勝負できるほどの性能を誇っている。

ウッドパネルの代わりにカーボンがあしらわれたセンターコンソール。シフトノブの手前にはファンクション・スイッチが並ぶ。可動式スポイラーの上下、車高の上下、可変ダンパーのコントロールが可能である。

 ダッシュボードもウッドではなくカーボンパネルが用いられている。シンプルだが車載時計としては桁違いの質感と存在感を示すブライトリングが中央に嵌め込まれるのは、他のベントレーと同様のディテールだ。

パワーユニットはスピード・シリーズを凌ぐ630ps仕様。数値でもベントレー史上最高をマークする。そのうえバイオエタノール85%含有ガソリンまで対応するフレックスフューエル仕様。最高速度は329km/hを誇る。

 搭載されているオーディオは、ハイエンドオーディオの名門Naim(ネイム)がベントレー専用にチューニングを施したNaim for Bentley。音像の定位感をもたらすDSP性能は車載オーディオとしても抜群の性能だ。

275/35ZR20というビッグサイズのピレリ・Pゼロ・ウルトラ・ハイパフォーマンスが奢られた脚まわり。装着されているホイールはスーパースポーツ専用のデザインで、スピード系のホイール同様、日本ワシマイヤー製となる。