マリナー・バトゥール ― これからの100年のために誕生した猛獣
MULLINER BATUR
マリナー・バトゥール
これからの100年のために誕生した猛獣
2022年8月にペブルビーチで開催されたモントレーカーウィーク2022で、ベントレーが発表した「バトゥール」。 たった18人のエクスクルーシヴな顧客のために生み出される特別なスポーツモデルは、これまでのベントレーの集大成でもあり、また未来を示唆する重要な1台でもあった。 果たして、バトゥールは私たちに何を語りかけているのだろうか。紐解いてみよう。
基本シルエット、基本シャシー以外のすべてを完全に顧客が決定できる、コーチビルドは、2020年に新ビジョンを発表したマリナーにとって大きな柱のひとつだ。その第1弾は昨年のモントレーで発表されたバカラルで、すでにデリバリーが始まっているこのモデルの誕生でマリナーの実力、最新技術の有効性は証明されたのだが、この8月に開催されたモントレーで発表されたバトゥールによって、マリナーはさらに上のステージへと進むことが明らかになった。
ベントレー自身も述べているように、このバトゥールにはいくつかの意味がある。まず採用されたチタン製パーツ、複合素材「ナチュラルファイバー」、無限の選択肢を持つ18金の3Dプリンター製パーツ、さらには顧客の好みによって選ばれたスコットランド産レザー、イタリア産なめし革、スエード調のダイナミカ、これらすべてがSDGsを意識した低カーボン、低排出二酸化炭素を実現している。たった18台というなかれ。未来への挑戦の端緒として称賛に値する改革に違いはないのだ。
またバトゥールに搭載された6.0リッターW12は、もちろん2002年に端を発する新生ベントレーを象徴する名ユニットだが、このバトゥールがW12の有終の美を飾る、言わば『花道』たる役割が与えられているという。すべて手組みされるというこのW12は、20年にわたり進化を続け、740PSもの出力を得るに至った。だがベントレーは地球の未来のために電動化へと移行を決意。すでにその第1歩を2025年という明確な目標と定めたことは、この名ユニットの終焉も意味している。そしてベントレーはこのW12の最後の大舞台としてバトゥールを用意したのだ。
さらにこのバトゥールには、未来を示唆する役割も与えられた。それはこのデザイン技法だ。これまでのベントレー・モデルは伝統を尊重し、誰が見ても一目でベントレーと理解する明確なディテールを重視してきた。今回バトゥールのデザイン・ディレクターであるアンドレア・ミントとそのチームは「確立されたルールに新風を吹き込むというエキサイティングな挑戦」と自らの仕事を評した。『獲物を狙う猛獣の姿勢』と表現されたバトゥールのシルエットは、これまでのベントレーにはない意匠といえよう。しかし、落ち着いて見ればベントレーを象徴するフロントグリルは今まで以上にそそり立ち存在感を主張。大型のヘッドライトを左右に1灯ずつ配置しているのはバカラルとも同じテーマである。つまり明確なベントレーのディテールを持ちつつ、全体としてはまったく新しいデザインを実現しているのだ。さらに重要なのは、このバトゥールのデザインは、2025年ベントレーが初めて放つBEVのデザインを示唆していると明言していること。つまり、このバトゥールこそ、ベントレーのこれまでに区切りをつけ、次の100年を示すエポックメイキングなモデルであると言えるのだ。
※「フライングB 1」(2022年刊)に掲載された記事に加筆修正しました。掲載された情報は、刊行当時のものです。