The Crewe-built Supercar
BENTLEY CONTINENTAL SUPERSPORT
パフォーマンスと環境性能を両立させたベントレーの輝ける金字塔
ベントレー・コンチネンタル・シリーズに特筆すべき新たなモデルが加わった。その名はスーパースポーツ。ただ単にパフォーマンスを追求するだけではなく、バイオ燃料にも対応する環境性能も磨き上げた現代のスーパー・パフォーマンス・モデルでもある。ベントレーの金字塔たるこのモデルを日本で試す機会が遂にやってきた。
text: 石井昌道
cooperation: ベントレー・モーターズ・ジャパン
Let's do something extreme!
何かすごいことをしよう! という発想から、コンチネンタル・スーパースポーツは生まれてきたのだという。ル・マン24時間レースを始めとするモータースポーツの世界で名を馳せ、高性能スポーツカーの名門たるベントレーとしては、常に高みを目指すのは当然のことだろう。
コンチネンタル・スーパースポーツの開発には「ベントレー史上最速、ベントレー史上最強」という明確なターゲットが設けられた。具体的には0-100km/hの発進加速性能で4.0秒を切ることが命題。ただし、絶対的な速さだけを狙うのでは「何かすごいこと」とまでは言えない。
ベントレーは社会的責任を持つ自動車メーカーのひとつとして、地域や地球環境に与える影響を最小限に防ぐことをコミットメントしている。それは生産工程まで含めた包括的な取り組みだが、製品に関しては2012年までにCO2排出量を15%削減、2012年までに燃費を40%向上するエンジンを導入、2012年までにすべてのモデルでフレックス燃料対応などがあげられている。このうち、コンチネンタル・スーパースポーツにはフレックス燃料対応が採用された。通常のハイオク・ガソリンはもちろんのこと、バイオエタノールとの混合ガソリンが使用可能となっている。混合比率の上限は85%。北米や欧州で販売されているバイオエタノール85%混合の「E85」で走らせれば、CO2排出量は最大で70%もの削減になる。
史上最速にして史上最強でありながら、現時点でGREENESTなベントレーでもあるのだ。
ベントレー史上最強のパワーを発揮
史上最速を目指すからには、エンジンの強化を図るのは常套手段。コンチネンタルGTやコンチネンタルGTスピードに搭載されている6.0lのW12気筒ツインターボは過給圧を高め、コンピューターをチューニングして最高出力630ps、最大トルク81.6kg-mを得るに至った。ベントレー史上最強であるのは間違いなく、世界中のスーパースポーツのなかでも最強スペックといえるだろう。
これに組み合わされるZF製オートマチック(トルクコンバーター式)はシフト時間が50%短縮されたクイックシフト・トランスミッション。シフトアップ時の点火カット、ダブルギアシフト(5速から3速などのシフトダウン時)、ブリッピング機構、プラネタリーギアの強化など、よりスポーティかつ強靱なユニットとされている。
そして動力性能ターゲットをクリアするために力を入れられたのが軽量化だ。カーボン・セラミック・ブレーキと軽量ホイールは標準装備。インテリアやシート、シャシーなどでも重量を削ぎ落とし、全体では110kgの軽量化が達成されている。とくに、2シーター化へ踏み切ったことは思い切った決断だろう。
ハイパワー化と軽量化の相乗効果によって得られた動力性能は、0-100km/h加速3.9秒、最高速度329km/hというもの。コンチネンタルGTの4.8秒、318km/h、コンチネンタルGTスピードの4.5秒、326km/hと比較しても、途方もないパフォーマンスを達成していることがわかるだろう。
シャシーにも手が加えられており、リアトレッドは50mmワイド化。サスペンションは軽量コンポーネントを採用し、ショックアブソーバーの減衰力の最適化、アンチロールバーのジオメトリー改良、ステアリングラックのチューニングといった変更をうけ、さらに前後トルク配分を40:60へ変更されると共に、ESPの最適化、第2世代となるカーボン・セラミック・ブレーキの採用などがなされている。
その走りはまるで別世界
いざステアリングを握る段になると、その圧倒的なパフォーマンスに身震いがするほどだったが、試乗経験のあるコンチネンタルGTスピードの20psアップならそれほど恐れることもないと自らに言い聞かせた。600psオーバーの高性能車の世界で20psはたった数%の違いでしかないのだから。だが、コンチネンタル・スーパースポーツの走りは想像を遙かに超え、まるで別世界だった。
ゼロ発進から一際ダッシュ力が鋭く、スピードの乗り方が違う。明らかに軽いことが体感される。クイックシフト・トランスミッションの効果も想像以上で、たんにシフトチェンジにかかる時間が短縮されただけではなく、ダイレクト感が高まっている。ベースのA/Tは、高級車としての滑らかを重視しているので、M/Tでいう半クラッチを長めにとったような感覚があるが、コンチネンタル・スーパースポーツのそれはコンッと軽いショックを伴いながら加速していく。文字通りスポーティで小気味いい。ブレーキも、ペダルに足を乗せた瞬間から強力な減速Gが得られる。ダイレクトではあるが、ペダルのストロークはとられており微細なコントロールをも受け付ける。効きもフィーリングも文句なしだ。
そして圧巻はコーナリング。サスペンションは30%ほど強化されているようだが、軽量化とも相まってロールは明確に減っている。あまりにグリップが高いので、タイヤも専用品かと思いきやベースと変わらないのだという。おそらく、サスペンション本体だけではなく、取り付け部などもチューンされているのだろう。すべての動きがダイレクトであり、路面から伝わってくるインフォメーションも豊かになっている。ステアリングの剛性感も明らかに高い。
スーパースポーツの価値は、ただ速くなったということだけではない。エンジンからトランスミッション、ステアリング、サスペンションと、すべてにおいてダイレクトな感触で、それに加え素早いレスポンスがドライバーのアドレナリンを誘う。試乗前はその性能にいささか気後れを感じていたが、コーナーをいくつかクリアしていくうちに、いつしか不安は吹き飛んでいった。ドライバーとの一体感が高まっているので車体がコンパクトに感じられ、自信をもって走ることができたからだ。
初めて付けられたモデル名バッジ
エクステリア・デザインは、その高いパフォーマンスを実現するための変更を受けている。つまり機能が形になっているということだ。
とくに、エンジンの高出力化への対応で冷却能力向上=エアフローの増加が図られており、そのためのエアインテークの拡大などが目立っている。フロント下部両端のバーチカル・グリルは、ヘッドランプの下側まで伸びた縦長の大型エアインテークとなり、メイングリル、フロント・ロアバンパーグリルとともに大量のエアを取り入れるようになっている。それを抜くのがツイン・ボンネットベント。これによって負圧が発生し、ポジティブエアの取り込みが可能になっている。抜けたエアはサイドミラー部からボディに沿ってリアまでスムーズに流れていくように計算されている。
各グリルやベントはスモーク・スティール仕上げとされ、スポーティな雰囲気を醸し出している。あわせてヘッドランプもカラーコーディネイトされており、スモーク・スティール仕様のベゼルを組み込んだブラック仕上げのケースが採用された。
サイドビューでも、10スポークのスーパースポーツ専用ホイールや、ウインドーおよびドア周りはスモーク・スティール仕上げ。フロントフェンダーにはスーパースポーツのロゴマークが刻まれたエクステリアバッジが配される。ちなみにベントレーはこれまでグレード名をボディに表示したことがなく、これが初めてのこと。それだけスーパースポーツは特別な存在なのである。
リアフェンダーはワイドトレッド化にともなって新設計となっているが、ボディ寸法は変わっていない。サイドミラーもスーパースポーツ用に改良されている。エアロダイナミクスを考慮しているが、前述の通り、ボンネットのベントから抜けたエアを綺麗に整流することが主な目的だ。
リアリップスポイラーはダウンフォースを高めるために後端部が8mm引き上げられている。その他、リア周りではバンパーのロアーバランスがブラック仕上げとなり、独自のワイドテールパイプ、ブラック仕上げのケースを採用したLEDテールランプなどがスーパースポーツとしてのスペシャル・エキップメントだ。
インテリアも軽量化を施すとともにスポーティな装いが施される。ステアリングとシフトレバーには手に馴染みが良く、グリップがいいソフトレザーを使用。フェイシアとセンターコンソールは従来のウッドパネルに変えてカーボンファイバー仕上げとされる。シートはカーボンファイバー製クラムシェルのバックレストにダイヤモンドキルト仕様のアルカンタラを施したもので、1シートあたり21kgの軽量化を達成。リアシートは取り払われ、そこにはカーボンファインバー製クロスビームが備わる。なお、リアシートはオプションで用意されており、4シーター仕様とすることも可能となっている。
ボディカラーはコンチネンタルGTの標準色に加え、スーパースポーツ専用のスタンダード・カラーとして「ICE」と「QUARTZITE」、有償オプションとしてマットペイントの「DARKGREYSATIN」「LIGHTGREYSATIN」の計4色が設定されている。
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ベントレーに求めるものは人それぞれだろうが、ラグジュアリー性よりも真のスポーツフィールを重視するのなら、ぜひコンチネンタル・スーパースポーツを試してみることをお薦めする。2シーターには二の足を踏んでしまうし、かといってリアシートを追加するのは邪道じゃないかと心配しているのなら、それは些細な杞憂だと申し上げておこう。たとえ、少しばかり重量が増したとしても、コンチネンタルGTやコンチネンタルGTスピードとは、まるで違う世界がそこに待っているからだ。
インテリアは軽量化を施すとともにスポーティな装いが施される。ステアリングとシフトレバーには手に馴染みが良くグリップが良いソフトレザーを使用。フェイシアとセンターコンソールはカーボン仕上げとされる。
シートはカーボン製シェルにダイヤモンドキルト仕様のアルカンタラを施したもので、1脚あたり21kgの軽量化を達成。リアシートは取り払われ、カーボン製クロスビームが備わる。リアシートはオプションで用意されている。
上下に拡大されたエアインテークとエンジンフード上のエアアウトレットがスーパースポーツのパフォーマンスを強烈に主張する。
ブレーキローターはカーボン・セラミック製が採用され、強烈なストッピング・パワーを発揮する。ローター径はフロントがφ420、リアはφ356となる。ホイールは10スポークのスーパースポーツ専用タイプで、そこに275/35ZR20のピレリP-ZeroUHPが組み合わせられる。
ベントレーの定番6リッター、ツイン・ターボチャージ付W12エンジンは、630ps/6000rpmを発揮。またE85バイオ燃料までの、ガソリンとエタノールのあらゆる混合割合で走行可能で、パワーダウンもない。
リアのオートマチック・スポイラーは後端の形状を変更し、フロントとのバランスを取っている。※『フライングB No.004』(2010年刊)に掲載された記事に加筆修正しました。掲載された情報は刊行当時のものです。