BOOK FILE 2-1:The Complete Bentley
完全なるヒストリーブック
ありそうで意外になかった、ベントレーの歴史を網羅したヒストリーブックが登場。 まさに“All in One”の1冊である。
text:Hiromi TAKEDA 武田公実
実は2009年は、ベントレーにとって創業90年のジュビリーイヤーである。昨今の世界的経済危機でいささか苦境を強いられつつも、今世紀に入ってからのベントレーの活躍には目覚しいものがあり、ベントレーに関する文献も急速に増えてきている。そんな中にあって、今回紹介する本は90年のベントレー史をほぼパーフェクトにひも解くことができる、現時点での決定版的な1冊なのだ。
本書は、ベントレー社史と歴代モデル解説の2部構成となっており、2008年までの全歴史を辿ることができる。その端緒には、開祖W.O.ベントレーが、自身のメーカーを起こす前にチューナーとして手掛けたフランス車“DFP”との関わりを紹介している。そして、最終的には2008年の最新モデルまで網羅し、過去と現在にベントレーが築き上げてきた栄光を、いま一度確認することができるのだ。
まず社史のパートは、創業者であるW.O.ことウォルター・オーウェン・ベントレーの誕生から始まる。彼がどのようにクルマに関心を持ち、レーシングカーのチューンを手掛け、そして自らベントレー・モーターズを興すに至るまでのヒストリーが、丁寧に綴られている。これは、自動車史的観点から見ても非常に貴重な資料と言えるだろう。もちろん、ル・マン24時間レースにおける6回の優勝経験にも触れており、その戦いのストーリーも伝えられている。そして、現代に至る全時代のベントレーに関する貴重な写真の数々に、当時のセールスカタログなどの歴史的資料も加えて、ベントレーのストーリーと魅力を堪能出来る充実の内容となっているのだ。
一方、歴代モデルのコーナーでは、歴代の生産モデルはもちろん、ル・マン優勝車やブルックランズのスピードトライアルを戦ったスペシャルに至るレーシングカー、さらにはワン・オフの試作車まで、重度のベントレー狂を自認する向きでも見たことがないようなモデルが、驚くほど貴重な写真とともに紹介されている。全時代を網羅しているゆえに、1台1台の詳しさについては従来の文献に譲るが、それでも1冊ですべてを賄える本書は、ベントレーファンならずともお勧めなのだ。
The Complete Bentley
Eric Dymock著
Dove Publishing Limited社刊
320ページ/英語
※「フライングB No.002」(2009年刊)に掲載された記事に加筆修正しました。 掲載された情報は、刊行当時のものです。