戦後ベントレーの開祖を知る

史上稀に見る成功を博した、シルバーシャドウ＆Tシリーズ姉妹。 そして派出モデルに至るすべてを記した、驚異的な1冊の登場だ。

text:Hiromi TAKEDA 武田公実

　かつてはベントレーのパートナーであったロールス・ロイスが、1965年から'80年まで製作したシルバーシャドウと、そのベントレー版たるTシリーズは、当時としては大きな成功を収めたロングセラーモデルだ。 　今やクラシックカーとしての風格もすっかり定着してきた感のあるシルバーシャドウ／Tシリーズ。だが、その実体は意外と知られていないようにも思われる。しかし、熱心なベントレーファンであればあるほど気になる両モデルの知的好奇心を満たしてくれる、絶好の文献が日本に上陸した。R-RシルバーシャドウとベントレーT、そしてそこから派出していったパーソナルカー、コーニッシュ系やカマルグに関しても余すところなく解説した、素晴らしい1冊である。
　この本の見どころは数多いが、やはり最たる例として挙げるべきは開発ストーリーだ。その内容はまさに膨大とも言うべき豊富さで、シルバーシャドウ／Tシリーズ共通の第一次プロトタイプである"チベット"、第二次試作車の"ビルマ"。そしてコーニッシュ系の起源となった2ドア･パーソナルカーのプロトタイプ"コリア"が、開発現場で秘密裏に撮影された貴重な写真とともに解説される。中でも、S3コンチネンタル時代に製作されたパークウォード製"チャイニーズ・アイ"をモダナイズしたような"コリア"クーペの写真や、R-RシルバーシャドウU／ベントレーT2へとマイナーチェンジを図る際に、当時のR-R社チーフスタイリスト、ジョン・ブラッチリーが製作したプロトタイプの写真は、ベントレーについてかなり詳しい読者でも、初めて見るものではないだろうか。これだけでも、この本の価値の高さが充分に窺えるのだ。
　もちろん歴代のモデルヒストリーや、シルバーシャドウ／Tタイプをベースとしたコーチビルドモデルの数々もしっかり紹介されている上に、レストアガイドや、クラシックカーの参考相場プライスまで記されているなど、両モデルの全貌を捉えた、まさにフルストーリーブックといえる作りとなっているのだ。


ROLLS-ROYCE SILVER SHADOW
BENTLEY T-SERIES
Malcolm Bobbit著
VELOCE BOOKS社刊
208ページ/英語

※「フライングB No.003」（2010年刊）に掲載された記事に加筆修正しました。 掲載された情報は、刊行当時のものです。